相続専門税理士 服部 誠 の「相続情報マガジン」
同族会社への貸付金と相続税
2025.11.07
同族会社の経営者が、自社の資金繰りが厳しいときに個人の資金を会社へ貸し付けることはよくあるケースかと思います。
このようなケースで経営者が亡くなった場合、この会社への貸付金も財産となるため相続税の課税対象になりますが、仮に同族会社の業績が悪化して返済が困難な状況であった場合でも、この貸付金に対しては相続税が課されるのでしょうか。
今回は、同族会社への貸付金があった場合の相続税法上の取り扱いと注意点について解説したいと思います。
相続税がかかる財産
相続税は、原則として、死亡した人の財産を相続や遺贈によって取得した場合に、その取得した財産にかかります。
この場合の財産とは、現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか、貸付金や特許権、著作権など金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものをいいます。
これが相続税法の基本的な考えになります。
会社への貸付金も上記の「財産」に該当するため、相続税の課税対象になりますが、その評価に関しては次のような取り扱いになっています。
【財産評価基本通達204(貸付金債権の評価)】
貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。
(1)貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額
(2)貸付金債権等に係る利息の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額
つまり、(1)貸付金は返済されるべき「元本」の金額で評価し、(2)まだ受け取っていない「利息」がある場合はそれも加算した金額が、貸付金としての相続税評価額となり、相続税の課税対象になります。
回収見込みがない貸付金の評価
貸付金の評価方法は前述の通り、「元本」と「既経過利息」の合計額になります。
回収が予定通りできれば問題ないのですが、貸付先の業績が悪化し回収の見込みがない貸付金等の場合も同様に相続税が課されるのでしょうか。
財産評価基本通達ではそのような場合の取り扱いも定めていますが、元本の価額に含めなくてもよいケースは、非常に厳しい条件を満たした場合に限られています。
その内容は【財産評価基本通達205】に定められていますが、概要としては、①債務者に関して破産や特別清算といった法律手続きが行われている場合や、②その回収が不可能又は著しく困難と見込まれる場合は、それらの金額は貸付金債権等の元本の価額に算入しないとされています。
参考:国税庁HP
財産評価基本通達205
前者の①の場合には裁判所等が関与するため状況や金額が明確になり、評価額も算定しやすくなりますが、後者の②に関しては表現が抽象的なため、その判断について非常に難しい面があります。
過去の裁判例でも、債務超過の状況が続いている債務者が経済的に破綻していることが客観的に明白であり、そのため債権回収が不可能又は著しく困難であると確実に認められる場合をいうとされています。
仮に業況不振で赤字決算が続いていたり、債務超過の状況が長期間続いていたとしても、経営破綻の状態が客観的に明らかでない場合には、その債務者への貸付金債権等の評価額は元本の金額になるため注意が必要です。
生前にしておくべき不良債権の対策
以上の通り、貸付金債権等は、その回収の見込みが殆どないと思えても、債務者が経済的に破綻していることが客観的に明白でない限り相続税の課税対象になってしまいます。
では、返済の見通しが殆どないような同族会社への貸付金債権等を保有している場合にはどうすればよいでしょうか。
事前に打てる対策としては、会社に対し債権放棄をしておくことです。
オーナー経営者から多額の借入金がある会社ですと、欠損金も多額にある会社と思われますので、その欠損金の範囲内で債権放棄を行うことで、会社にも法人税等の課税の問題が発生せずに貸付金債権等を消滅させることができます。
なお、生前に債権放棄を行う場合には、債権放棄した事実を証明できるよう、「債権放棄通知書」などの書面を作成して実行することをお勧めいたします。
いかがでしょうか。
生前に法的に有効な債権放棄をしておくことで、不良化した貸付金債権に対する相続税の課税を回避することができます。
同様の問題を抱えている経営者の方は回収の可能性を見極めたうえで早めに手を打つようにしましょう。
今後の参考になれば幸いです。
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