相続専門税理士 服部 誠 の「相続情報マガジン」
遺言書と異なる遺産分割の是非
2022.09.12
遺言書と異なる遺産分割の是非
被相続人が遺言書を作成していた場合、その遺言書の内容に相続人が納得し難いケースも実務ではよくあるものと思います。
本来であれば財産を残した被相続人の意思が尊重されて然るべきですが、相続税の計算上、節税となる特例が適用できない分け方になっている場合や、今後の財産の維持管理を考えた場合には違う相続人が取得した方が望ましいことも有り得ます。
そのような場合には、遺言書と異なる形で相続したいと思うこともあるでしょう。
遺贈が「特定遺贈」の場合、受遺者全員が遺贈の放棄を行えば、遺言者の死亡の時に遡って遺言の効力が失われ、遺言で受け取る人が誰もいないことになります。
そうなりますと、相続財産の全てが相続人の共有財産となり、改めて相続人全員で遺産分割協議を行うことになりますので、遺言書と異なる形で遺産分割を行うことが可能となります。
なお、遺贈が「包括遺贈」の場合には、相続の放棄・承認に関する規定が適用されることから、相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に遺贈の放棄を行う必要があります。
遺言と異なる遺産分割ができない場合
前述のとおり、受遺者全員が遺贈の放棄を行うことで遺言と異なる遺産分割が可能となりますので、受遺者の中に一人でも遺贈の放棄に同意しない人がいる場合には、遺言と異なる遺産分割はできなくなります。
また、遺言者が遺言書において「指定した分割方法以外の分割を禁止する」旨の意思を明確にしている場合には、遺言と異なる遺産分割協議を行うことはできません。そこまで遺言書に記載するケースはそう多くはないと思いますが、遺言書の文言はよく確認する必要があります。
遺言書と異なる遺産分割をした場合の税金
受遺者全員の遺贈の放棄があり、相続人全員の同意のもとで遺言と異なる遺産分割協議を行った場合には、税務上の取扱いとしては贈与や交換といった考えはとらず、通常の遺産分割協議を行った場合の相続税の計算と同じ扱いとなります。
従って、受遺者が被相続人の配偶者や一親等の血族(子・親・代襲相続人となる孫)の場合には通常の相続税の計算になりますが、そうでない人の場合には、相続税額は通常の相続税額に2割相当額を加算した金額になります。
相続人でない受遺者がいる場合
受遺者の中に相続人でない人がいる場合には注意が必要になります。受遺者全員が遺贈の放棄をすることで遺産分割協議が可能になりますが、その遺産分割協議に加わることができるのは相続人に限られます。
例えば相続人でない人(Xさん)に遺言では「甲土地」を遺贈すると記載されている場合、Xさんが他の相続人である受遺者とともに遺贈を放棄したとしても、「甲土地」以外の財産をXさんが相続で取得することはできません。
仮に他の相続人全員と合意してXさんが「甲土地」以外の「乙土地」を取得するためには、一旦、相続人の誰かが「乙土地」を相続で取得し、その後にXさんに贈与する必要があります。この場合にはXさんには贈与税が課されることになります。
相続人でない受遺者の場合には、遺言に書かれたとおりに財産を取得することが望ましいでしょう。その場合には贈与税ではなく相続税の対象になります。但し、通常の相続税の2割増しとなる点だけご注意ください。
以上、ご参考になれば幸いです。
税理士法人レガート 税理士 服部誠
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