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「何と32億円の贈与が無税!?」
2016.04.20
税理士法人レガートの“税務調査ブログ”。(Vol.108)
■「何と32億円の贈与が無税!?」
今回は、生前に子へ渡された32億円のお金が相続財産となるか、生前贈与となるかが争われ、最終的には無税となった事件をお伝えします。
事案の内容は次の通りです。
○ある大手製紙会社の社長で絵画収集でも有名なRには、A、B、Cの3人の子がいた。
○昭和63年、Aは自分が役員である会社から2億円を借り入れて、株式投資を行ったが失敗し2億円の返済ができなくなった。父であるRが自分の会社の経理担当者に「出してやれ」と指示し、平成2年にR個人の口座からAの口座へ2億円が振り込まれた。
○平成2年、Bは会社からの借入金10億円で株式投資をしたが、A同様に失敗。再び父Rが経理担当者に「出してやれ」と指示し、平成3年にR個人の口座からBの口座へ10億円が振り込まれた。
○Cにも株式投資で失敗した借金が20億円あったが、これも父Rの「出してやれ」の一声で、平成2年に20億円がR個人の口座からCの口座へ振り込まれた。
○A、B、Cの全員が父Rとの贈与契約書や金銭消費貸借契約書を作成せず、贈与税の申告も行っていなかった。
○平成8年、父Rが死亡。上記の32億円を相続財産には含めずにABCは相続税の申告を行った。
○その後の税務調査で32億円は相続財産であるとして、税務署が平成11年4月に決定処分を行った。
○ABCは税務署の決定処分は不服であるとして処分の取り消しを求め争った。
税務署の見解は次の通りです。
○父Rが救済したかったのはABCではなく、取引銀行から返済を迫られた会社であり、32億円はその返済資金として渡したものである。
○贈与契約書がないので贈与の合意はなかったと考えられる。
○32億円は贈与ではなく、借金返済のための立替金である。
○父Rは、自分が死亡した時にABCへの立替金を免除する意図があったことから、これは立替金の死因贈与契約である。
○従って、32億円は遺言によって債権を取得したと同様に考え相続税の課税対象となる。
一方の納税者の主張は次の通りです。
○父Rは金員の交付の際に、それが贈与であることを明言していた。
○父Rから一度も金員の返済を求められたことはなかった。
○32億円は銀行を通じて確実にABCが自分のお金として管理し、会社からの借入金の返済に充当していた。
○従って、Rから受け取った資金は贈与されたものであり、相続財産に該当するものではない。そして、贈与税の課税に関してはすでに時効を迎えている。
最終的に静岡地裁では次のような判決を下しました。
○父Rにとって32億円の交付は、単に必要な金員を「出してやれ」という程度のもので、金員の交付の趣旨は明確ではないものの、その後、父Rから交付した金員の返還請求はなかった。
○高額ではあるものの、父から子らに対する金員の交付であって、原告(ABC)らも交付された金員を返済するだけの資力がなかった。
○以上の事実関係に照らせば、原告(ABC)らの借入金の返済資金として各金員を贈与し、原告らもこれを承諾していたと認めるのが自然かつ相当である。
○父Rが自らの死亡を始期として始期付免除(死因贈与)をしたと評価するのは技巧的に過ぎるといわなければならない。
○贈与税の申告の有無と贈与の有無とは直ちに結びつくものではないから、贈与税の申告あるいはその準備行為をした形跡がないからといって、この事実を過度に重視するのは相当ではない。
このように静岡地裁では税務署の相続税決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分を取り消す判決をくだし、さらに贈与税に関しては除斥期間経過(時効)のため贈与税の課税もできないという結果となりました。
この事件のポイントは贈与が成立していたのかどうかにあります。贈与は民法上の「諾成契約」であり、「あげる人」と「もらう人」の両者の合意があって初めて成立するものです。2億円、10億円、20億円のお金が動いたときに、父Rと子ABCとの間で「贈与契約書」を作成しておけば、上記のような裁判沙汰にはならなかったのではないかと思われます。もちろん、贈与税の申告納税も本来は行わなければならないのが正しい姿ではあります。
今後の参考になれば幸いです。
(つづく)
今回もお読みいただきありがとうございました。
税理士法人レガート 税理士 服部誠
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